お化けなんてないさ
『穢れた聖地巡礼について』 背筋 KADOKAWA
この本を家に置いておくことができるか?
背筋氏の前作『近畿地方のある場所について』は恐怖と不快感で俺をどん底に突き落とした。
読み終えた後は、その本が家にあることすら嫌で、追い払うように人に貸してしまった。
俺が読書に求めるのは、現実を忘れて物語に没入すること。そういう意味では、『近畿地方のある場所について』は間違いなく傑作だった。
背筋氏の新刊が出れば買う。
それが手元に置いておくのがイヤな本なら、なおさら良い。
あらすじ
フリーの編集者・小林。冷静でどこか心が死んでいるようなおじさんだ。
彼は心霊スポット突撃系YouTuber「チャンイケ」のファンブック制作を引き受けることになる。霊的現象を信じないチャンイケと、ビジネスとして割り切る小林。2人は人気動画に関連するエピソードや噂話を集め、さらに取材を重ねて、よりドラマチックな物語を作ろうとする。
考察を楽しむ
本作は、心霊スポットにまつわる噂や取材記事といった情報の断片を集めていく中で、だんだんと全体像が見えてくる構成だ。
登場人物たちの過去も物語が進むにつれ開示され、本筋と絡み合ってくる。
独立した各エピソードが少しずつリンクし合い、やがて一つの大きな流れになってきたか...!
と思ったら終わっていた。
正直、ざっと読み飛ばし過ぎた。示されたパズルのピースを俺は次々忘れて読んでいた。
細かく「ここがリンクしてるな」と気づきながら読んでいれば、もっと面白かったに違いない。
残りページが少なくなるにつれ「頼むから怖くなってくれ…」と不安になりながら、そのまま読み終えた。
楽しみきれなかったのが残念だ。
情報の断片といえば、近頃のホラーやオカルティックな作品でも似た作品が多いと思った。
ブラウザの謎解きゲーム「愛宝学園かがみの特殊少年更生施設」や、意味深な動画の短編から何か世界で恐ろしい事が起こっていることを推察する「The Backrooms」なんかに近い感じがした。
積極的に考察を促す、「考察をすると楽しいですよ!」という作品があるが、そうなると問題はこっちの気力体力コンディションだ。
著者の前作『近畿地方のある場所について』は小説としては独特な構成で、物語が進むにつれ、ある一つの章がリフレインしながらも徐々に変化していくことで因縁の深みに沈み込んでいくような仕掛けになっていた。本作はトリッキーな前作の二番煎じを避けた分、小説のパワーが足りない感じもした。
結果、この本は家に置いておけます。よかったね。
『穢れた聖地巡礼について』、気が向いたら読んでみて!
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